最高裁、高裁判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻す。
東芝に勤務していた女性従業員はうつ病に罹患して休職し、休職期間満了後に会社から解雇されたが、うつ病は過重な業務に起因するものであって、解雇は違法、無効であるとして、安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は3月24日、女性従業員にも過失があったなどとして賠償額を減らした2審高裁判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻しました。
2審東京高裁と、今回の最高裁の判決の概要は次のとおりです。
—〔東京高裁判決(2011年3月23日)〕—解雇は無効であるとし,うつ病につき会社は安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償責任を負うとした上で,女性従業員が,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったことは,会社において従業員のうつ病の発症を回避したり発症後の増悪を防止する措置を執る機会を失わせる一因となったものであるから, その損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺により損害額の2割を減額した。
—〔最高裁判決(2014年3月24日)〕—業務の過程において,女性従業員が会社に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので,労働者にとって,自己のプライバシーに属する情報であり,人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。
使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。
また,過重な業務が続く中で,女性従業員は,体調が不良であることを会社に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し,業務の軽減の申出をするなどしていたものであるから,会社としては,そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり,その状態の悪化を防ぐために上告人の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったというべきである。
これらの諸事情に鑑みると,女性従業員が会社に対し上記の措置を執らずに本件うつ病が発症し増悪したことについて,女性従業員が会社に対して上記の情報を申告しなかったことを重視するのは相当でなく,これを従業員の責めに帰すべきものということはできない。賠償すべき額を定めるに当たっては,上告人が上記の情報を被上告人に申告しなかったことをもって,失相殺をすることはできないというべきである、と判断しました。