パワハラの判例(1)|弁護士 面川 典子

6月の記事「個別労働紛争解決制度施行状況(平成25年度)でも記載しましたが、民事上の個別労働紛争の相談内容では、「いじめ・嫌がらせ」が2年連続で最多となっています。これは、実に相談件数の約20%になります。その中では、うつ病などの精神疾患を発症し、労災補償を受ける人も増えています。バブル崩壊以降、会社が共同的であった所謂「日本型雇用形態」から、成果主義的な雇用形態への変化が背景にあると考えられます。パワハラによる被害を受ける労働者はもとより、企業も蒙る損失も相当大きなものとなります。

今回は、F生命米子営業所での判例をご紹介します。概要は、下記のとおりです。裁判では、一般的には「雇用をおびやかす言動、侮辱、暴言、執拗な非難、人前での叱責、威圧的言動、無視、必要な情報を与えないなどの有無が判断のポイントになっているようです。

〔パワハラ事案の概要〕

生命保険会社において営業職として勤務し、マネージャーであった者(原告)が、上司の逆恨みによる嫌がらせを受けたため、うつ病に罹患し、離職に追いやられたとして上司と会社に対し、民法709条、715条に基づいて損害賠償請求をした事案。  ⇒ 慰謝料 300万円の支払い

 

〔経緯事実等〕

F生命保険会社の米子営業所で営業職として勤務してきて、昭和62年に一つの班のマネージャーとなった。原告の班は営業成績が最下位であり、原告自身の成績も芳しくなかったため、原告は上司からたびたび叱責された。なお、ある顧客の契約について告知義務違反があるとのトラブルが生じ、その顧客から苦情が出たとのトラブルがあったが、後に解決している。
その後、原告はストレス性うつ病と診断され、休職をしたが、期間満了で自動退職となった。そのため原告から、会社及び上司に対し上司による違法な行為について慰謝料とともに、治療費や入院費等、逸失利益の請求がなされた。

 

〔裁判所の判断〕

裁判所は、他の社員のいる中で、確認の必要が乏しいにもかかわらず、告知義務違反の教唆の有無という生命保険会社の営業職員にとって不名誉な事柄を問いただしたこと、長年マネージャーを務めてきた原告に対し、「マネージャーが務まると思っているのか」「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」等いかにもマナージャー失格であるかのような言葉を使って叱責したことは違法であるとして、慰謝料300万円の支払いを命じた。
但し、上司らの違法な行為との相当因果関係はストレス性うつ病の発症までで、重篤化や入院、退職との間の相当因果関係は否定した。(F生命保険事件 鳥取地裁米子支部判決H21.10.21労判996号)

 

 

2014年9月1日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : 面川典子(弁護士)