解雇無効の判例(1)|弁護士 面川 典子

解雇が濫用でないとされるには、労働義務違反の程度が重大で、雇用継続が期待し難い程度に達していることが必要となり、さらに従業員間の平等取扱いも必要となります。

調査研究を行う法人で事務をおこなっていた54歳の男性従業員、勤続17。就業規則違反を繰り返し、勤務成績もはなはだ不良のため就業に適しないとして解雇した事案(神田法人会事件H8.8.20東京地裁)では、裁判所は解雇の事由にはなりうるとしたものの、他の従業員との扱いが平等でないことから、解雇権の濫用であり無効としました。

経緯事実等

文書作成等の能力に欠け、特に勤務態度、積極性、企画性、協調性等において問題が大きかった。上司と協力して仕事をしようとせず、上司の机との間にわざわざロッカーを入れて壁にしたり、さまざまな嫌がらせや反発を示し、注意を与えて上司に対しては逆に喰ってかかった。膨大な遅刻(15分未満)が続く 半年間に100日という年もあった。勤務ぶりはアルバイト的で積極性に欠け、上司より注意されても一向に改善されなかった。書面の発送を怠り、始末書を提出したこともあった。朝出社してタイムカードを押した後、外回りに出ると報告して外出すると全く仕事先によらず帰宅した。自己のタイムカードを多数回に渡り改ざんした。

 

裁判所の判断

 15分以内の遅刻ではあるが、回数の多さやその他の事情からすれば、勤務成績、勤務態度は非常に悪く、解雇事由になりうる。しかし、この法人では、この従業員以外にも同様の回数遅刻を重ねている職員がいたが、解雇されておらず、事務局長にまでなっているものもいる。さらにこの従業員に対しては、退職を求めたが断られた。すると、昇給を止めて賞与額を大幅に減額し、後の就業規則に定年退職の条項を追加して退職を通告したりした。しかし、他の職員については定年を無視して雇用を継続するなどしていたことから、本件解雇が信義則に反し権利の濫用であり無効とした。

(神田法人会事件H8.8.20東京地裁)

 

 

2014年1月22日 | カテゴリー : 労働 | 投稿者 : 面川典子(弁護士)