みなし労働時間の適用を認めず最高裁|弁護士 面川 典子

旅行会社が主催する募集型の企画旅行の添乗業務に従事していた女性が、派遣元の会社に対し時間外割増賃金等の支払を求めた訴訟で、最高裁は、「勤務時間の算定が難しいとは言えず、みなし労働制は適用できない」として、派遣会社の上告を棄却する判決を言い渡しました。これにより、派遣会社に約30万円の支払いを命じた2審東京高裁判決が確定しました。

添乗業務について労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるかが問題となりました。判決は、次のように「労働時間を算定し難いとき」にあたらないと判断しました。(最判平成26年1月24日)

 【要旨】   本件添乗業務は、ツアーの旅行日程に従い、ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ、その旅行日程につき、添乗員は、変更が起こらないように旅程の管理等を行うことが求められており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。そして、ツアーの開始前には、旅行会社は、添乗員に対し、具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに、添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し、これらに従った業務を行うことを命じている。そして、ツアーの実施中においても、会社は、添乗員に対し、携帯電話を所持して常時電源を入れておき、ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には、本件会社に報告して指示を受けることを求めている。さらに、ツアーの終了後においては、本件会社は、添乗員に対し、前記のとおり旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって、業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ、その報告の内容については、ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものになっている。これらによれば、本件添乗業務について、会社は、添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。

以上のような業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると、本件添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。

 【参考条文】  労働基準法第三十八条の二 第1項 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただ し、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところによ り、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

 

2014年1月27日 | カテゴリー : 労働 | 投稿者 : 面川典子(弁護士)