労働問題関連情報
関連情報(弁護士 面川典子wrote)
正社員有効求人倍率(4月 0.61倍)は、横ばい|弁護士 面川典子
厚生労働省は、5月30日に、4月の有効求人倍率(季節調整値)を発表しました。
(毎月月末に公共職業安定所(ハローワーク)における求人、求職、就職の状況をとりまとめ、求人倍率などの指標を作成し、一般職業紹介状況として毎月公表しています。)
厚生労働省発表 一般職業紹介状況(平成26年4月分)
(以下概要)
平成26年4月の数値をみると、有効求人倍率(季節調整値)は1.08倍となり、前月を0.01ポイント上回りました。新規求人倍率(季節調整値)は1.64倍となり、前月を0.02ポイント下回りました。正社員有効求人倍率は0.61倍となり、前年同月を0.12ポイント上回りました。4月の有効求人(季節調整値)は前月に比べ0.6%増となり、有効求職者(同)は0.5%減となりました。4月の新規求人(原数値)は前年同月と比較すると10.0%増となりました。これを産業別にみると、製造業(23.2%増)、サービス業(他に分類されないもの)(15.2%増)、宿泊業,飲食サービス業(11.6%増)などで増加となり、生活関連サービス業,娯楽業(3.5%減)で減少となりました。 都道府県別の有効求人倍率(季節調整値)をみると、最高は愛知県の1.56倍、最低は沖縄県の0.64倍となりました。
—-厚生労働省発表 一般職業紹介状況(平成26年4月分)より—-
有効求人倍率をみれば、1.08と雇用環境がたいへん良くなってきているように見えますが、非正規社員が中心の改善になっています。正社員を見れば、0.61倍です。内、実際の採用は約8.6%しかありません。正社員の採用については、各企業とも相当慎重であることは、間違いありません。労働者にとって、正社員になることは相当難しい環境が続いていると言えます。
月間有効求人数 957,751人
就職者数 83,098人
有効求人倍率 0.61倍
有効求人に対する成約率 0.68%
有効求人倍率は、景気動向を見る重要な指数とされてきていますが、雇用関係の複雑化、ハロワーク以外での採用を選択(特に正社員の募集にこの傾向が大きいと言われています。)などもあり、以前のように指数の上げ、下げが雇用の状況を的確に反映できなくなってきているのは確かです。私たちも、できるだけ発表の中身も検証することが必要と考えます。
労働時間規制の撤廃を検討|弁護士 面川典子
厚生労働省が、働く時間を自由に選べる代わりに、現在、労働労働基準法で原則8時間(週40時間)と定められた労働時間規制を廃止し、働いた時間の長短に関係なく賃金を支払う「ホワイト・エグゼブション」を、高収入で専門性の高い職種に限って導入する方向で検討を開始し、来年の通常国会に労働基準法改正案を提出する方針と報道されています。
各関係者の主張のポイント
・厚労省
対象職種として為替ディーラーやファンドマネジャー、IT分野の専門職などを想定
年収1千万以上等の年収基準を設ける
・産業競争力会議
年収1千万未満でも労使合意で対象を決めることができる制度を提案
・労働組合
実質、すべての労働者を対象とする制度の入り口になることを警戒
日本では、会社の人事権や指揮命令系統が強いため、労働者が自己の裁量で働き方を決められる余地は少ないです。さらに一般的に仕事の範囲が明確でないため、現行の勤務体系のもとに、実質的に残業代がゼロになる制度になってしまう可能性も大きいと考えられます。今後、法改正に向け議論が活発かされてくると思いますので、注視していきます。重要事項については、このサイトで書いて行きます。
労災うつ病、解雇無効 東芝に損害賠償。労働問題判例 |弁護士 面川典子
最高裁、高裁判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻す。
東芝に勤務していた女性従業員はうつ病に罹患して休職し、休職期間満了後に会社から解雇されたが、うつ病は過重な業務に起因するものであって、解雇は違法、無効であるとして、安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は3月24日、女性従業員にも過失があったなどとして賠償額を減らした2審高裁判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻しました。
2審東京高裁と、今回の最高裁の判決の概要は次のとおりです。
—〔東京高裁判決(2011年3月23日)〕—解雇は無効であるとし,うつ病につき会社は安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償責任を負うとした上で,女性従業員が,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったことは,会社において従業員のうつ病の発症を回避したり発症後の増悪を防止する措置を執る機会を失わせる一因となったものであるから, その損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺により損害額の2割を減額した。
—〔最高裁判決(2014年3月24日)〕—業務の過程において,女性従業員が会社に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので,労働者にとって,自己のプライバシーに属する情報であり,人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。
使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。
また,過重な業務が続く中で,女性従業員は,体調が不良であることを会社に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し,業務の軽減の申出をするなどしていたものであるから,会社としては,そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり,その状態の悪化を防ぐために上告人の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったというべきである。
これらの諸事情に鑑みると,女性従業員が会社に対し上記の措置を執らずに本件うつ病が発症し増悪したことについて,女性従業員が会社に対して上記の情報を申告しなかったことを重視するのは相当でなく,これを従業員の責めに帰すべきものということはできない。賠償すべき額を定めるに当たっては,上告人が上記の情報を被上告人に申告しなかったことをもって,失相殺をすることはできないというべきである、と判断しました。
特定労働者派遣制度廃止|弁護士 面川 典子
政府は、3月11日労働者派遣法の改正案を閣議決定しました。今次の通常国会で労働者派遣法が改正され、平成26年から施行される見通しです。(改正案の内容については、1月30日のブログをご参照ください。1月30日ブログへリンクします。)
厚生労働省の改正案では、特定労働者派遣制度が廃止され、一般派遣制度と一本化されます。新制度の許可基準は、現在の一般労働者派遣許可基準がベースになると言われています。これにより、特定労働者派遣制度により派遣事業を行っている会社の中には、新制度どの許可条件をクリアできない会社もあり、派遣会社の統廃合等再編が進むと思われます。
制度の移行については、緩和措置が取られる見込みですが、特定労働者派遣事業者及び同事業者の労働者は短中期的な視点での計画的な対処が求められます。
また、受入企業も、業種によっては無期限であった同一人物の派遣受け入れ期間3年の上限が設けらたことと併せて注意が必要です。
一般労働者派遣が許可制であるのに対して、特定労働者派遣は届出制度です。届出が受理されれば即日業務を開始することができます。現在は、一般労働者派遣のように、事業資金、事業所面積、実態調査、更新手続き等の条件もありません。新制度では、下記の一般労働者派遣許可基準に近い条件が課されることになります。
〔一般労働者派遣許の主な許可条件(現在)〕
事業資金:純資産2000万円以上/1事業所当たり
現預金残高:1500万以上/1事業所当たり
事業所の面積:20㎡以上/1事業所当たり
更新手続き:初回は3年、2回目以降は5年に一度
労働者派遣法制限撤廃へ向け改正へ|弁護士 面川 典子
昨年12月17日に、このブログでも、労働者派遣法改正案(厚生労働省)として(ここをクリックすると1月27日ブログへリンクします。)、取り上げました労働者派遣法改正について、厚生労働省は本日(1月29日)労働政策審議会が、厚生労働大臣に対し、労働者派遣制度の改正について建議を行ったと発表しました。
厚生労働省は、この建議の内容をもとに、平成26年通常国会へ法案を提出し、平成27年4月の実施を目指しています。
現在3年となっている派遣受け入れ期間の上限を廃止し、3年ごとに働く人を入れ替えれば、企業はどんな業務でも、同じ職場で派遣を無期限に受け入れを継続できることになります。これにより、正社員から派遣への置き換えが進んだり、派遣社員の固定化が進むと予想されます。
報告の詳細については、厚生労働省労働者派遣制度の改正についてご参照ください。
みなし労働時間の適用を認めず最高裁|弁護士 面川 典子
旅行会社が主催する募集型の企画旅行の添乗業務に従事していた女性が、派遣元の会社に対し時間外割増賃金等の支払を求めた訴訟で、最高裁は、「勤務時間の算定が難しいとは言えず、みなし労働制は適用できない」として、派遣会社の上告を棄却する判決を言い渡しました。これにより、派遣会社に約30万円の支払いを命じた2審東京高裁判決が確定しました。
添乗業務について労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるかが問題となりました。判決は、次のように「労働時間を算定し難いとき」にあたらないと判断しました。(最判平成26年1月24日)
【要旨】 本件添乗業務は、ツアーの旅行日程に従い、ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ、その旅行日程につき、添乗員は、変更が起こらないように旅程の管理等を行うことが求められており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。そして、ツアーの開始前には、旅行会社は、添乗員に対し、具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに、添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し、これらに従った業務を行うことを命じている。そして、ツアーの実施中においても、会社は、添乗員に対し、携帯電話を所持して常時電源を入れておき、ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には、本件会社に報告して指示を受けることを求めている。さらに、ツアーの終了後においては、本件会社は、添乗員に対し、前記のとおり旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって、業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ、その報告の内容については、ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものになっている。これらによれば、本件添乗業務について、会社は、添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。
以上のような業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると、本件添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。
【参考条文】 労働基準法第三十八条の二 第1項 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただ し、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところによ り、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
解雇有効の判例(1)|弁護士 面川 典子
労働者の解雇が有効とされるには、労働者が違反を繰り返し、会社の再三の注意・指導にも関わらず、改善の見込みがないと判断される客観的事実があることが必要とされます。
事務機器販売会社に再就職した50代の男性従業員。勤務成績不良で、再三の注意・指導にも従わず改善の見込みがないと解雇した事案。(N社事件 H18.3.14東京地裁)裁判所は、業務の遂行に必要な能力を著しく欠くと認められ本件解雇は、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当であったと判断しました。
経緯事実等 男性従業員は、物流業務課に配属されたが、10か月以上経過してもなお、商品納入にあたって欠品を生じさせたり書類の提出の遅延などを繰り返 し、また、社内の他部門関係者や顧客からその業務対応の不適切さ、不誠実さ、協調性を欠く言動について苦情が寄せられることが多かった。その都度、マネージャーは、男性従業員に対し、状況報告を求め、また、指導・注意を行ったが、男性従業員は弁解をして指導・注意に従 わず、反省の様子が見られなかった。そこで、会社は、男性従業員を別の部へ異動させることとしたが、そこでもトラブルを生じさせ、顧客から苦情が寄せられたため、上司は再三、注意・指導を繰り返したが態度は改善しなかった。そのため会社は男性従業員を普通解雇とした。 裁判所の判断 裁判所は、男性従業員の勤務態度をことさら問題視されたことが上司との相性や上司の男性従業員に対する嫌悪の情に 起因するとはいえず、男性従業員は、上司からの再三の指導・注意にもかかわらず、自己の勤務態度を反省して、改善することがなかったと判断 せざるを得ないから、男性従業員は、業務の遂行に必要な能力を著しく欠くと認められ本件解雇は、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当であったというほかない。(N社事件 H18.3.14東京地裁)
解雇無効の判例(1)|弁護士 面川 典子
解雇が濫用でないとされるには、労働義務違反の程度が重大で、雇用継続が期待し難い程度に達していることが必要となり、さらに従業員間の平等な取扱いも必要となります。
調査研究を行う法人で事務をおこなっていた54歳の男性従業員、勤続17。就業規則違反を繰り返し、勤務成績もはなはだ不良のため就業に適しないとして解雇した事案(神田法人会事件H8.8.20東京地裁)では、裁判所は解雇の事由にはなりうるとしたものの、他の従業員との扱いが平等でないことから、解雇権の濫用であり無効としました。
経緯事実等
文書作成等の能力に欠け、特に勤務態度、積極性、企画性、協調性等において問題が大きかった。上司と協力して仕事をしようとせず、上司の机との間にわざわざロッカーを入れて壁にしたり、さまざまな嫌がらせや反発を示し、注意を与えて上司に対しては逆に喰ってかかった。膨大な遅刻(15分未満)が続く 半年間に100日という年もあった。勤務ぶりはアルバイト的で積極性に欠け、上司より注意されても一向に改善されなかった。書面の発送を怠り、始末書を提出したこともあった。朝出社してタイムカードを押した後、外回りに出ると報告して外出すると全く仕事先によらず帰宅した。自己のタイムカードを多数回に渡り改ざんした。
裁判所の判断
15分以内の遅刻ではあるが、回数の多さやその他の事情からすれば、勤務成績、勤務態度は非常に悪く、解雇事由になりうる。しかし、この法人では、この従業員以外にも同様の回数遅刻を重ねている職員がいたが、解雇されておらず、事務局長にまでなっているものもいる。さらにこの従業員に対しては、退職を求めたが断られた。すると、昇給を止めて賞与額を大幅に減額し、後の就業規則に定年退職の条項を追加して退職を通告したりした。しかし、他の職員については定年を無視して雇用を継続するなどしていたことから、本件解雇が信義則に反し権利の濫用であり無効とした。
(神田法人会事件H8.8.20東京地裁)